ねぇ、ねぇ、どっちだま?




毎回クロの話で始まって悪いんですけど…。

クロは僕がこれを2階でパチパチ書き出すと、必ずトコトコと追いかけるように上がってくる。
なんかパチパチやっている間、横に居るのが好きなみたい。
不思議なことにパチパチ以外にはあまり興味を示さない。
未だによくわからない猫の気持ち。唯一膝の上でおとなしくしているのもこの瞬間。

「クロおいで!」

膝の上をポンポンと叩くと、クロは乗ってくる。
「パロンもパチパチ書いてみる?」クロの両手を持ってキーの上に無理矢理置いてみる。
書くわけないんだどさ。これがいきなりキー打ち出したら相当怖いだろな。モニターに浮かび上がる、にゃんこのタイプ。

「おっクロたん、一体何を書いているのかにゃ?なになに…」

「hjjooin カ ok;k ワ ;: レテ イル ノハオマエ タチ ニ ンゲン ノ ホウダ」

「クッ、クッ、クロ?!」

「ギャー!!」

実際、そんなの見ちゃったら悲鳴あげるよな。
クロ、馬鹿なフリをしていてくれてありがとう。君はいつまでもそこでただただ寝ていてください。こんど時給上げるね ☆。

東京からカトキチ達の友達が平沢にやってきた。
国分寺で「トネリコ」というお店をやっている夫婦。サンちゃんとしみちゃん。
カトキチは一時期「あ~、今、トネリコのなんとか喰いて~」ってうるさいぐらい言っていた。今、喰えねぇって!
つまり、彼にそれぐらいのことを言わせるお店なんです。
もっとも、カトキチの「今、何々をしたい」「今、何々になりたい」というのは、割と頻繁に聞かれる彼の口ぐせ。

例をあげれば「今、あの人!あのざぶーん水に飛び込んだ人、あの人になりてぇ~ 今の瞬間替わりたいわ!」とか、
「うわ~、すんげー気持ちよさそう、あの花を飛び回るミツバチ。ミ
ツバチに今すぐなりてぇ~。今すぐ替わりたいわ!」とか。

自由な坊主頭こからもどうぞよろしく。

ちなみに自分が気がつくと言っている口グセは「俺、今晩死ぬのかも」ってやつ。
これはあまりにも楽しすぎる瞬間に出ちゃうことが多い。だからもし僕がこれを言ってる時は相当MAX入ってます。

話を戻して、東京から二人はちょうどアイヌネギが採れ頃を狙ってやってきた。
加藤家に集合していざ出発。そこでほぼ初対面となった。軽く会釈するもなんか照れる。
何回か見かけたことはあったんだけど、サンちゃんの方はしゃべってることすら見たことない。
こんな声だったんだ。思ったよりもやさしい声。あっしの好みだわ♂。

アイヌネギは昨年と同じ場所に採りに行った。秘密(公然の)の山のものすごい急傾斜に群生している。
それよりもこんな場所、誰が見つけるんだろう。僕たちはタネちゃんから教えてもらったのだが、伝え伝わる感じって何かおもしろい。
師匠(カトキチの釣りの師匠)曰く、野生の舞茸の在処(ありか)などは、その場所を誰にも教えることなしに、墓まで持って行くって人も居たみたい。
昨年、バム平と僕が師匠に教えてもらった舞茸の場所も、見つけた当人が亡くなる寸前にギリギリで師匠に教えてくれた場所。そんな歴史の継承者にせっかく選ばれたのに、馬鹿な二人は憶えきれませんでしたとさ。でもあれは素人には1回じゃ無理だわ。木の区別がつかん。

アイヌネギは昨年よりも来るタイミングが良かったみたいで、トネリコの二人も存分に採ることができている。

急斜面に座って、遠くの山を見ながら休憩する。去年も同じようなことをした。
ここ最近しつこく書いているけど、昨年ここに来て同じ山を眺めていた時とだいぶ気持ちが違う。同じ所で同じ山脈を見ても感じるものが違うってことだ。
何か全体にピンが甘く、自分がしていることでも他人事であるかの様な気ちから、ひとつひとつにピンをしっかりと合わせながら解像度高めで楽しめるようになってきた。

今、この瞬間、北海道、その真ん中、富良野、南部、急斜面の森、目の前のあの山脈、緑の匂い、土になりかけた落ち葉、ふかふか、湿気、友達、アイヌネギ、それを採りに来れている自分、自由、自由、自由、点、ハートマーク。

「ナーッ!!」 雄叫び。

いいだけ採った後、買い出しに麓郷に寄る。
サンちゃんが店からうれしそうに日本酒一升を抱えて出て来た。なんでも到着した昨晩も、彼らはいいだけクイクイいっちゃてるらしい。

この男、実にたのもしいぜ♂。

そして次の日の晩に行われた「トネリコパーティ」 なんとトネリコの味がここ平沢に復元。
二人がわざわざ東京からお店で使っているソースや材料を送ってきてくれたのだ。

カトキチは既にその日の午後から口角に泡が出現していた。
トネリコチームの作る料理はなんていうのかな?ああいう料理。多国籍料理?
ムラもすごく腕を上げているし食材も新鮮だし、というより新鮮じゃないものには、なかなかお目にかかれないというここの状況。ここでの食環境に不満は全くないんだけど、流石プロが作る料理は味の階層が複雑、こういうのはやはりここでは味わうことができない。

レッツ スタート ザ サパー! 美味い!美味い!悲鳴まじりの鼻ちょうちん。

それに伴って、お酒もぐんぐん空いてゆく。ビール、ワイン、そして日本酒。
これまた、この二人がどっちともえらく呑むんだ。ザルって言うんですか?ああいうの。良い意味で。

サンちゃんはかなりこなれた顔になってきた。しみちゃんは余計にハキハキと喋りだす。

「けいちゃんは何時に寝るの」しみちゃんに聞かれる。

「9時か10時かな」

「じゃ、ちょうど私たちがラストオーダー取ったころだね。そんときにけいちゃん達のこと思い出せばいいんだね」

最初、何を言っているのかよくわからなかったんだけど…。
だけど、そうだ。俺も同じことやってた。まだこっちに来る前にカトキチの所に遊びに行ったことがある。東京に戻ってきてしばらく経つと、体験した環境があまりに異次元のものだったために、何か違う世界の出来事のようで、こことあそこが繋がらない。
あの場所であの二人が住んでいることを想像してみる。頭の中で繋げてみる。
この瞬間、彼らは何もしているのだろう?そろそろ奥の部屋の電球をつけて、晩ごはんを食べているのだうか?その横の部屋から見える丘の上の夕暮れは、今日はどんな感じだろ?
必死にそういう繋がり方をしてた。繋がるとなんとなくやんわりと。
今、この瞬間にもあの場所であんな風に暮らす奇人が居るんだな。

それをつまみに一人でビールを飲んだ。蒸し熱い空気の中。

サン
ちゃんはもの凄く落ち着いている。だけど突飛、そしておもしろい。そのバランスが、僕には彼が人という種の完成形として写る。すべての人間はこんな感じでいいじゃないの? みんな、サンちゃんでいい。
年下であるにも関わらず、僕は年上と話している感覚でいた。シミちゃんもおもしろい。なによりも話しがめんどくさくなくていい。まわりくどい話はしない。酒が変わる度にサンちゃんが、新しいつまみを作ってくれる。

俺、今晩死ぬのかもしれない。 

いつものメンツ以外の人の話はとても新鮮だった。
めちゃくちゃ白米を食べるって話がウケた。おひつの取り合いになる夫婦ってすごくない? 人のこと言えないけど、変わった勢いをもつ人達だよな。

そして日本酒によって脳細胞が退化しはじめた5人(ムラは全く呑めない)。
まだ一面青かった景色もやっと真っ暗になった頃には、僕らの話す会話は小学校3年生程度の内容になり下がっていた。

それはズバリ、うんこの話と歯くその話。それも延々!

これは既に30代、ましてや40代の会話ではありません。でもいくつになっても、実際うんこの話は盛り上がるね。それは間違いない。あいつはすげぇ!

カトキチはうんこ系は平気。俺、大の苦手。

こっちの冬は便槽に構築される氷結うんこ、通称「うんこタワー」を倒すという強烈な作業をしなければならない。これキッツくない? ところがカトキチはここを突くとパタンパタンと倒せるとか、そういうの考えるのが楽しいんだって! そんなことまで楽しみたくないよー。加藤君、それ500円でお願いできます?

「もう全然やるよー やりー!バイトゲット!」

その時の僕の安堵感。ほっ。加藤君は相変わらずヒーローだ。

ところが、そのヒーローにも弱点があって、それが歯くそ。

全然わかんねー!!
歯くそなんて無味無臭のローカロリーでオーガニックの人畜無害じゃん。
おまけに謙虚なことに、先輩はわざわざ歯と色を合わせてくれているんだぜ。
こんなのコロに食べさせてあげなよ。

というようなことを延々とカトキチに返すと、彼の顔がみるみる歪んでくる。
もう歯くその存在を想像するだけいっぱいいっぱいみたい。あー気持ちいい!
こういう姿を目にすることはそう滅多にあるものはない。

話はだんだんとエクストリーム。うんこだま と はくそだま。

「どっちか食べなきゃいけないって言われたら、ねぇ、どっち?」

「もう全然うんこだまだよー」とカトキチ。

「えーっ! それさ、真剣に想像してないからだよ、本当に真剣に想像してみ。うんこだまはあり得ないよ。だって歯の間にうんこ挟まるんだよ おえーっ!!」それを想像してカトキチ以外全員悶絶。

「はくそだまなんて、チョコチップでもトッピングしようものなら、ちょっとしたスイーツじゃん」カトキチの息が浅くなる。目がどこを見ているのか分からななる。

「じゃあさ、けいちゃんは、ムラちゃんが生き返るっていったら、うんこだま食べられる?」しみちゃんに聞かれる。

「そりゃ、喰うよ。そこは考える余地ないよ。だって生き返るんでしょ?」

「愛しているんだね…」

そーいう類いの話じゃねぇって!

「えーアムちゃんも、リーダーが生き返るなら「おかわり!」って言うよ」

誰も「おかわり!」までしろって言ってねぇ!

「私、真剣に想像したら、ここで食べられるってキッパリと言えない…」しみちゃんが言う。

「しみちゃんって凄く正直な人なんだね。いいと思う(偉そうに)」

こんな話をね… 延々… してました。 午前1時半まで。 アホ。

飲み過ぎたバム平はその晩、笑うぐらい(実際に笑いながら)上から下からの大騒ぎだったのだそうだ。

こんな自由なプリン屋店主、これからもどうぞよろしく。

あーおもしろかった。

最後分かれる時に、二人とがっちり握手。
しかし、瞳孔が閉じた僕の目には、二人はただのシルエットにしか見えない。また、会おうぜ、陰。

この話にはオチがある。
翌朝、昨晩の話になったらしいのだが、どうも話が噛み合ない。

「歯くそードック? 何それ?」

なんと、トネリコの二人はその晩話した容のほとんど憶えていなかったのだ!

「ナーッ!!」

ま、あんな内容を憶えていてもクソの足しにもならないもんな。

そうして、おひつの取り合いをする夫婦はあっという間に僕らを呑み尽くし去って行った。

彼らの去った平沢は、4月の気持ち悪い暖かさがウソのようにまた寒さが戻る。薪ストーブさん、まだ当分お世話になります。

こちらではこれを「リラ冷え」と言うのだそうだ。




今週読んだ105円本
「天と地は相似形」横尾忠則著


↓クロしか撮るものがないのがバレバレの巻