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ふるさとラジオ
うーん、間違いない。
あれが消えたってことは。
THE 暇。
車がパッタリと通らない時間帯、僕はスイートコーンの山の向こうの、無数に浮かぶ雲のうちのどれかひとつを選んでは消すという、例の暇つぶしをしていた。もう、これは…。
誰かに無理して証明する必要もないし、一生懸命説明して、わざわざ分かってもらうようなことじゃないね。だって雲はこうして消えてるんだから。たぶん消えて当然っていう、かなり科学的な仕組みがあると思うんだ。だって、そんな曖昧な感じの消え方じゃないもん。今はその仕組みがわからないだけで。
重力でさえ、ニュートンの前でりんごが落ちる前は、戯言のひとつとして捉えられていたわけでしょ?たぶん。
THE 暇。
ヒロシの「ヒロシです。」読む。
読んじゃった。
ヒロシっていい奴なのな!それだけはよく分かった。
ヒロシです。
僕のサドルがありません!
THE 暇。
かぼちゃでも磨くかな。この作業は結構夢中になれる。
特に「坊ちゃんかぼちゃ」と呼ばれている小さい種は、磨くと断然に存在感が増し、ジュエリー感(そんな「感」ねーよ!)が増すのだ。
THE 暇。
お次はと…。そろそろ配置替えかな。かぼちゃをマイナーに落として、スイートコーンをレギュラーに上げてと…。そんなこんなしている隙に、まさかの小たまねぎがFA宣言、プチトマトがトライアウト。今日のハネモノマーケットも移動が激しい。
何日かやってみると、車の流れというのが段々つかめてきた。午前中は帯広から富良野に抜ける方向の車が多い。僕から見ると右から左へ。そこで朝は右側を山がデカ目で派手めになるようにしてみる。そして午後は配置を逆にする。ここに座っている感じにも違和感がなくなってきた。たぶんその違和感は他人にもバッチリ伝わっていたと思う。そういうことって商売の肝だよね、たぶん。
お客さん相手にいろいろ試行錯誤をする感じは嫌いじゃない。つうか、好き。人を見るのが好き。おしゃべりが好き。
前にフリマをやったことがあって、1日が終わって心底クタクタになりながらも、人とのいろいろな駆け引きや、お客さんにもひとつひとつの人生がアリ、みたいなことを想像したりするおもしろさ、その他もろもろ。結論として、俺、こういうの結構向いてるかも…と考えたりして。それは、毎日やってもいいと思える程、凄く楽しかった。
スイートコーンを味見程度に数本買っていった、ちょっと知的な感じの夫婦のお客さんは、翌々週も現れ、そのスイートコーンの美味しさを絶賛、ここに寄るためにわざわざ道を変えたのだと言ってくれた。平沢野菜の味を信用できたのか、今回は驚愕の「右から左まで全部ちょうだい!」状態。つまり「大人買い」ってやつですね。こういうリピーターの人の声を聞く度に、ここ平沢の野菜の味について僕は増々自信を深めていくわけなのだ。
余談になりますがね、奥さん、なんでもですよ、東大がですね、全国の野菜を調べたところ、お隣村の老節布(ろうせっぷ)の芋やかぼちゃに含まれる糖分(だか)がですね、全国で一番多かったらしいのですよ。その老節布よりも、まだ標高が高いわけですからね、この平沢は!
これはもう、日本一の美味さと言っても、決しておおげさではないわけです。平沢の農家の某さんは「老節布の野菜も美味いが、それよりもっとさ、ここのやつの方が味いいぞ!」とおっしゃってました。私、聞きました!つまりです、これはリピーターのひとつも出て当然だわいっ!ちゅー話なんですよ。ハネモノだからってなめんなよ!なわけですよ。どんとぺろりあん!なわけですよ。(前にも同じこと書いてるかも、なんせ、読み返さないから、俺)
ま、そんなうれしいこともある反面、曲がったキュウリ(私が作りました)を、「これ、見てくれ(見かけ)悪いから亀の餌にちょどいいわ」って買っていかれになった、御夫人もおられになりましたとさ。
ケイゴです。
僕のきゅうりは、味のわからない奴には食べてほしくなかとです!
特にハ虫類には!
スピーカーから聞こえる、北朝鮮のようなテンポのNHK「ふるさとラジオ」
いつまでも聞いていたくなるような、アナウンサーの美声を、ここの静寂が無限にすいこんでいく。
彼女 教科書広げてる時 ホットなナンバー空にとけてったー的な清々しさ。
あぁ こんな気持ち うまくいえたことがない ないあいあい…的な午後。
こういう時は…。そうそう、君だよね。
「新入りさん、ちょっと見ない間に何やってんのぉ? 儲かんのぉ?コレ? ウケるー!」
「笑って頂いてありがとうございます」
「あ、ごめん、私、言い過ぎた?」例のリスが謝る。
いつもこんな感じ。
「謝るなよ、笑えよ!こちとら、人に笑われるようなことをどんどんやっていくことに、使命すら感じているんだから」
それでも、SOOはバツの悪そうに口をモゴモゴさせるだけで、何もしゃべろうとしなかった。
「なんか、もってく?」「悪いからいいよ」「かぼちゃは?」「かぼちゃ嫌い」
「痩せた? しっぽのあたり」
リスに軽く無視される僕。
「有機はやってないの? 今はああいう方が売れるんじゃないの?」
「まーそうなんだけどさ…」
有機野菜や無農薬、それも自分で作ったものを売るというのは、リスに言われるまでもなく最強のパッケージ。ただハネモノを放おっておきながら、わざわざ新しい風呂敷を広げるというのは、順序が違うのではないかと、どうしても思ってしまうんだよな。
でも、ま、いずれそういうこともしたいよねぇ。
それにしてもだ。このリスもすっかりよくわからない中途半端なキャラになったものだ。
出会った頃は、今思い起こせば、何か魔法にかけられたのであろうか?その住居にお邪魔するという、サイケデリックな経験もさせてもらったり、宇宙の秘密も教えてもらったり、いろいろ過剰なキャラ設定をしていたものなのだが、何せ作者が適当。未だその素性と、何故こんなキャラがそもそも出てくるのか?根本的な問題は全くの放置。最近はあの木にも居ないようだし。でも、これからもちょくちょく現れる気はするんだ。
「繰り返すけど、話が進まない時だけ、登場させるの止めてくれる?」
「そんなことないよ、あいつ、どーしてるかなーって、ちょっと思ってたよ。バイトはまだやってるの? そういえば宇宙の話さ、あれ自分の父親に話したらさ、真剣に怒られたよ。おまえは科学を馬鹿にしてるのか? ビックバンを研究している科学者を否定するのか?って。流石にリスに聞いたって言えなくてさ。もう、黙るしかなくて…辛かったわ」
「ビックバン…? あのね、バイトはとっくに止めました。つうか、バイト先つぶれた。仕事自体は好きだったのに」
「あの宇宙の話は本当でしょ?」
「えっ?そんなこと言われても。だってアレは…」
「なんだよーそれ! 俺、書いちゃったよ。んー。まっ、そういうことならそれでいいわ、誰も信じてないし。それより、あのさ、雲って…」
そこまで言いかけたとところで、SOOはささっと用水路の窪みに飛び込んだ。草のうえからしっぽだけが出てる。
ごろごろと派手な音がしてきた。
「車、来ちゃったね。雲って何?」
「いや、あのさ、雲って念で消えると思う?」
「消えるもなにも…。あっと、まったねー」
毎回、中途半端でごめんな。おかげで1ぺ―ジ埋まったよ。
向こうの方から馬鹿に大きなタイヤを履いたランクル。隣村の太一くん。前からサクラになってちょうだい!と頼んでいたのだ。
そうさ、こちとらガキの使いじゃねーんだ、売るためなら、サクラだろうがヤラセだろうがなんでもやるぜぇ。ひっひ。
それにしても、本当に来てくれたんだ!
埃をまいあげて派手に止まった車。律儀な奴さ、西部の男は。
マカロニウェスタン、マカロニのところが意味不明。
ところが、降りてくるなり、腰からガンをぶら下げ、ジャーキーをかじりながら、男は僕を見るなり笑い泣きをしながらこう言いやがった!
「けいちゃん、やべー。けらけら。やばいっすよ、マジで。完璧に「無能の人」じゃないっすかー!(泣)(笑)」
カチーン!
自分で思ってても、人から言われたらカチンとくることってあるよね?佐波くん。
そんな感じの何回かの週末を経て。
だんだんと着るものが増えたり、かぼちゃがいきなり売れ出したり、最後のトマトが取り合いになったり、ツーリング途中のライダーと話し込んだり、もうちょっと来年は看板をなんとかせにゃならんなぁと思ったり、美人姉妹が現れたり、夕立のあとの空が綺麗だったり、落葉きのこが美味かったり、村の人が通る度になんか照れくさかったり、大西さんが冷やかしにきたり、ロバート・ハリスの本がおもしろかったり、コロが来たり、野生の舞茸を取りに行ったり、あいかわらず生えている場所が覚えられなかったり、薪ストーブをセッティングしたり、カーテンの色を変えたり、久々に日本酒を呑んだり。
しかし終わりはあっけなく。
いつものように、ムラに設営を手伝ってもらって、集落センターに戻ると、風に飛ばされたテントはぐっしゃりと。再生不能。ちなみに、その日は長い時間停電になるほどの、雷雨の激しい日であった。ヤケ酒という理由を作って、昼間から酒を飲む。なんか終わり方までしょぼかったけど、ごくろうさん、俺。
10月半ば、消化不良で今年のハネモノマーケットは終わった。
2008年の総売上20,700円也。でもさ、これも100円、200円って単位の積み重ねだと思うと感慨深いよ、マジで。
こんな自分に協力してくれた農家の方達に本当に感謝。
そして次の週末。
僕らは1年半ぶりに東京に行くことになっていた。
1年半。はたして長いんだか、短いんだか。
ただ、前の生活は確実に抜けてきてはいるんだろうな。新聞の天気欄の東京のところを無意識に見ることは、もうだいぶ前からしなくなっている。
北海道中膝栗毛、旅の本番はこれから。もうここまで来たら、人の目にどう写ろうと知ったこっちゃない。旅の恥はかきすて御免。
なのだが、実はたった一人「この人だけには自分のことを信用してもらいたい!」って思っている人が僕にはいる。
ほんと、その人だけには!って人が。
その人はムラ。ではなく、ムラの父親だ。
ムラの父親だけには、不義理(言葉合ってる?)をしたくないという気持ちが強い。皆にこの事を話すと、大体は「そんなに気にしないでもいい」と言われる。
実はムラの父親は社長さん。ムラは否定するけど、ムラはお金に困らないで暮らせるお家のちょっとしたお嬢さん。
息子のいないムラの父上は僕に継いで欲しいと考えていたと思う。
事実、仕事も手伝っていたし、継ぐことになるなかぁ…なんて曖昧なことを考えていたこともあった。期待も持たせてしまったと思う。
それを、ブッチして僕はここに居まっす。
たぶん、生き方がお父さんと僕では全然違うから、完全に分かってもらうことは無理だと思うのだが、ウソでもハッタリでもなんでもいいから、安心させたいという矛盾のある思い。
もちろん、ここに来たこと自体は間違っていなかったし、その先に光も感じているのだけれど、なにぶん…ねぇ? 20,700円だし。
そういうわけで、今東京に行くということは、少なからず覚悟がいることなのですよ、僕にとって。
いろいろな会話をシュミレーションするけで、ちょっとドキドキする。
たぶん、いろいろ聞かれます。
「おまえら、ちゃんと食えてるのか?」「まぁ、なんとか…」背筋がぴーん。親指ばーん。膝ちょっかーく。必至。
羽田に降りたとき、意外なことに懐かしい感じは全くしなかった。
まだ1年半だもんな。
コンコースを歩くと10月も下旬なのにムワッと。背中や腕にじんわり出る汗に、Tシャツがペトっとくっつく。
あーこれこれ、この感じ。
Oh! 授業サボって 日の当たる場所に居たんだよ
久々。
今週読んだ105円本
「文句あっか!」島田洋七著
※RCサクセションの「トランジスタラジオ」、NHKの「ふるさとラジオ」どっちも大好き。共通するのは世の中との清々しい距離感、とこじつけてみる。
※マジで父親に怒られました。科学を全否定してはいかんと。全否定してないのに…。
※お好きな雲、3万で消します。
※次回更新は2月初旬です。
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