リセット×リセット
不覚にも風邪を引いてしまった。ここ数年引いていなかったのに…。
やらなきゃならない事は一杯あるののだが、この家で唯一片ずいている和室で寝込んでしまう。
前回にも書いたが、インターネットがテストの結果使えない事が判明したのが、ちょうど熱の上がり始めの時。
自宅までテストに来てくれた通信会社の人の「あーもうエラーが出ちゃってるわ。やっぱりここは無理ですね」という死刑宣告を聞いた途端、一気に熱は上がった気がする。
あーもうどうでもいいや。今はただ海の底のホタテになりたい…。
この際、ヤケで風邪薬とか一切飲まないで、自分の免疫力を試してみる事にした。
結果からいえば、僕の免疫力はたいした事がなかったみたいで、丸三日、38.5度から下がる事がなかった。そして完治までに10日もかかってしまった。
額に濡れタオルを置いてひたすら寝ている時、気がつくと、窓際にあのリスが、またしても口をモグモグさせていた。
「あら?シンイリスウァン!もうダウン?ナサケナっ!」
「情けないわ、確かに。でもこの風邪は札幌でもらってきたのよ。ここでやられたわけじゃないよ。」
「それって、人間の世界でいう「言い訳」ってやつ?私達にはそんなもん無いから、分からないんだけど…。」
「言い訳じゃないって。ばぁちゃんの見舞いで行った病院でうつされたんだよ」
「風邪なんてねぇ、何処に居ようと誰と会おうと、自分がピッとしていればかからないものよ。でもなおったら、奥さんと一緒に遊びに来てよ。私、最近バイトやめちゃって暇なんだ。」
「何のバイトをしてたの?」
「ダイエット食品のモニター」
「へー。リスもダイエットするんだ?」
「最近じゃ、わたしたちも木の実ばっか食べてるわけじゃないのよ。詳しくは言えないけど。」
「それよりおじさん、東京から来たんでしょ?やっぱ芸能人とか見る?」
「見るには見るよ。」
「ねぇねぇ誰?誰?」
「一番びっくりしたのは舘ひろし。すんげー頭小さいの!そういうイメージ、ないでしょ?」
「へーおもしろひー。風邪早くなおして、今度来た時、もっと教えてよ、そういう話」
「でもこの風邪ちょうど良いリセットになるかもね。あとリポDが良いわよ。」
「とりあえず、お大事に。まったねー」
SOOの言うとおりだった。
なかなか置き場所がなく、ひたすら自分の周りに漂っていた東京の気配は、丸三日、この土地でひたすら寝続けた事で、地面に溶けて滲みていった。
なんだか、体がやっとこの土地に馴染みはじめてきたようだ。
そして要らないものは消え去ったが、必要な物はよりクッキリと残った気がする。
結果的には本当に良いリセットになった風邪だった。
そして次の日には、大家さんが僕達の歓迎会を開いてくれた。
頼みもしないのに、いきなり押しかけた僕達の為に…本当に感謝します。
「病上がりなので、あんま酒呑めないなー」、「オラの男気を見せられないなー」なんて事前には思っていたのだが、アホな俺は結構呑んでしまった。一升瓶が何本か空いていたらしい。
大家さんのお父さんの話はシンプルかつダジャレかつアドベンチャーかつ深い。
話のたくましさが、まさに北海道レヴォ。すげー人も居るもんだ。
その昔(とはいってもそんなに昔ではない)には、ここらはカウボーイのように、馬で隣村まで道なき道を移動していたらしい。それも冬にしかここを出ることができなかったのだそうだ。冬?普通夏だと思うでしょ?夏は木々が生い茂りすぎて、逆にどこに居るのかわからなくなるんだと!あと、冬は熊が冬眠してるからなんだと!
開拓から間もないここら辺の土地では、まだまだその当時の話をダイレクトに聞く事ができる。
そのお父さんのスケールのデカイ話に対して、お母さんの抜群なタイミングでのツッコミ。
ムラが大声で笑うのを見るのは久々だ。
いやーここの人って暖かいなー。北海道の人ってこんな感じだったかなー?
なんて考える頃には、表で僕は大家さんの息子さんとダンスを踊ってた模様。(記憶が曖昧)
DEATH DISCO。それは一瞬の天国であった。
そのすぐ後には、引き上げる車内の助手席の窓からモドしていた模様(記憶なし)
これは後にVIPゲロと登録された。(VIPさながらのゆったりとしたポーズでモドしていた為)
しかしこれも本当に楽しいリセットだった。
次の日、モドしたおかげで、朝から調子が良い。落ち着きの無かった気持ちの触れ幅も、だんだん楽しめる範囲に落ち着いてきた。今日の朝日は気持ちよすぎる。
ほら、鳥さんたちも、ぼくたちを歓迎してくれているよ。
はじめまして、鳥さん。!僕の好きなものはプラモデルとナスの漬物です。
あと、しょうらいはプロ野球せんしゅになりたいです!
まずは、家で手を入れなければならない所の優先順位を決める。
いずれ自分達の手で家を作るまでの繋ぎで住む予定なので、雨、風、しのげて、最低限暮らせれば良い。金は最低限しか掛けるつもりはない。
だけどちょっとは快適に暮らしたい。だって人間だもの。
そこでやっぱり気になるのは便所なんだよな。
実は昨年の夏にここに来てから、俺の頭から離れないものは便所だった。
とにかく便所が気になる。
テレビで「自給自足の人を紹介」とかね、よく放送しているでしょ?自給自足よりも、その人自身よりも、僕の場合、気になるのはなんといっても「便所」。
「便所」写せー!それもドアップで!願わくばスーパースロー再生で! それだけが知りたい!みんなどんな風に処理してんの?アレ。
結局は溜めるしかないのかな?とか。バイオトイレっていうの凄く良いみたいよとか。
穴掘って用を足しても、人間の糞尿って簡単に堆肥にならないんでしょ?とか
ここに来るまでの9ヶ月、俺の頭の4割は「THE 便所問題」に占領されていたであろう。
ある時は便器に追いかけられる夢をみた。
ある時はトンネルを抜けるとそこは便槽だった。
都市生活は糞尿という物をなるだけ遠ざける。そんな物なかったフリをする。
アイドルはうんこをしない。でも最近は「する」みたいね。平成って怖いね。
話しを戻して、今まで存分にその恩恵を受けていた自分にとって、糞尿と面と向かって対峙する経験は人生で初といっても良い。正直、腰が引けていた。
みなさん、オレ、そんなレベルよー。笑っちゃうでしょ。
てんでだらしない、偽自然派よー(そんな言われた事ないが…)
そんな僕にとって、まぶしい存在が居る。それはカトキチだ。
正直に言うと、僕はちょっと「カトコン」(カトキチコンプレックス)の気があると思う。
まぁ、赤裸々な告白はいいとして…
昨年の夏、僕達はいろいろな空き家を廻って、住めそうな家のめぼしを付けていた。
見るべき所はいろいろある。空き家といっても状態は様々だ。
北国のここでは、人が住まなくなると冬の間にその家は相当傷んでしまう。
水周り、天井の雨漏りの跡、基礎の状態。ある空き家を訪れた時の事だ。
ざっと確認をしつつ、やっぱり便所と風呂を見る時には、ちょっとおっかなびっくりな僕。
ずんずん入って、テキパキとチェックするカトキチ。
とりあえず便所を覗く。「ふんふん、なるほどねー」
裏に回って、便槽の状態をチェックする。そして躊躇なく便槽の蓋を開けた。(ワオッ!)
それもなんとオニギリを頬張りながら!。そして勇ましくこう言い放った。
「あーこれ、もう全然、今からでも使えるじゃん! ウォー!!(雄叫び&ガッツポーズ)」
かっこいい…すげぇぜ、カトキチ。
だけど僕には、ここは土の穴に便器がのっかっているだけにしか見えないんだけど…モジモジ。
それ以来、僕にはカトキチがまぶしく見えてしょうがない。
バム平(カトキチの嫁)が「リーダー、リーダー」ってうるさいぐらい言うのも良くわかる。
カトキチは確かにすげぇ。すげぇよ。あんたリーダーだよ!
僕もこの地でカトキチの様にたくましくなる事ができるのだろうか?
オニギリを頬張りながら便槽の蓋を持ち上げる男になれるのであろうか?
いや、なれるともさ。
カトキチがオニギリなら、いつか俺はたくあん喰ったる!ウォー!!(雄叫び&ガッツポーズ)
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