ジャングルシーズン




とうとうこの山奥にも春がやってきた。
ふきのとうがあちこち、どころかウジャウジャと生え出している。
ふきのとうとふきって地面の中で繋がっているって知ってる?
僕知りませんでした。なんで繋がってるんだろうね?意味わからないよね?おもしろい。
東京に住んでいた時、売っているふきの大きさに、ずっと違和感を感じていた。
ふきは大好きなので、スーパーで手に取るのだが「アレッ? これ、ふき?」の繰り返し。
ムラに聞いても、ふきの大きさはこんなものだという。
僕が子供の頃に食べていた、あのデカイふきは幻だったのであろうか?
この春やっと僕の記憶が「やや正常」である事が証明されたのである。

先日、宮崎県から富良野に来ている人に会った。
彼の故郷とあまりに違うここでの暮らしは、彼には強烈な体験となっているはずだ。
願わくば、僕もその新鮮な感覚、視線を持ってこの土地に入ってみたかった。
他の3人と僕が違う点は、僕だけ北海道出身だという事だ。
つまり、彼らほどフレッシュな視線でこの土地を体験できない。
たまに3人がうらやましく思えるときがある。
とはいっても、ここは充分に僕にとっても凄いけど…。

そういえば、二転三転した通信の問題なのだが、結局はエゾアムプリン製造所内にハイブリッドコンピュータルームを作る事になった。そこでは、すべてのソースをインタラクテイブに一括管理し、アウトソーシングビジネスには不可欠なスピーディーな対応が可能、そしてフレキシビリテイーをメインテインしつつも、あなたのご資産をガッチリガード!そのためにヒューマンタッチなライトECOプラス霊感山感第六感を最大限にリサイクル、結果、2008年度末ケーツネ60を確保予定、偽セレブ対応のインテリアは信州の「わさび田」を忠実に再現。どこまでもゴージャスに!!持続型社会の実現を目指しつつも、小学五年生のキラメキを忘れない。
そして結局最後はいつも「アーソレッ!ソレッ!」(YOSAKOI)

というわけで簡単に説明するとアムプリンの小屋にインターネットの通信を引いて、そこで、このサイトなどの作業をする事になった。これはかなり苦肉の策だったのが、結果的には皆でネットを使える事になるので良かったと思う。それが決定してからしばらくたって、僕は凄い事に気がついた。東京においては、大体、仕事は自宅で行っていたのだが、簡単な仕事の打ち合わせは、FAXと電話、最後は通信でデータを送って完了という流れができていた。つまり通信が通じる所なら、作業はどこでも良い訳であり、昔からポーッと…

「だったらよーオラ、丘の上にある見晴らしの良い木の小屋で仕事やりてーなー」

なんてちょっと妄想気味に、<煙突から煙を出している丘の上にある木の小屋の中で仕事をする自分>を想像していたのだけれでも…ハッ!

「えっ!まさに想像してた通りになっちゃってるじゃん!!」

やっぱりマーフィーズロウは本当だね。僕は信じるね。
コツはできるだけニヤニヤしながら馬鹿面で想像すること。肩に力を入れて願うことはだいたいダメね。大学も落ちまくったしね。それとは逆に薬師丸ひろ子にも会えたしね。(これは中学生の時かなり想像してた、ちなみに実現まで18年かかりました)
俺は声を大にしてこう言いたい!


そこの君、あきらめるなかれ。


実はこの「丘の上の小屋」話をムラやカトキチ、バム平に興奮気味に話したところ、ほとんど無反応なのであった。ほほ。

それはそうと、ここに来てから1ヶ月が経とうとしている。
まだ家の修復は終わっておらず…というどころか、
まず一番に直さなきゃいけない玄関や風呂がまだ手付かずなのだ。
それに合わせて、予定よりやや大規模に野菜を作ることをはじめてしまったものだから、異様に毎日が忙しい。

その日は半日休みにした。自分達で区切らないと作業は延々に続く。

やっと道も乾いてきたので、以前から目をつけていた林道にマウンテンバイクで走りに行った。この道は昨年、車でカトキチに案内してもらった道だ。

その時、彼はうれしそうに「ジャングルクルーズ!」と僕に言った。

その時、車の中で上でガタピシゆられながら、僕は
「この道をマウンテンバイクで走ったら気持ちいいだろうなー」
「ここに来たら、絶対、最初にここにくるべ!」と頭の中の絵を膨らませていた。

ipodの中には、今朝、フィツシュマンズの「ロングシーズン」を追加した。この曲は、だいぶ昔に猛烈に聴いていた曲だ。
実はこの引越しの際、僕はフィツシュマンズのCDを、「北海道に行ったら、あんまりフィツシュマンズっていう感じでもなくなるんだべな…」と、<あんまり聞かないCDダンボール>の方に入れてしまっていた。
フィッシュマンズって、都会の気持ちよさを歌った歌だと思っていたから。

しかし、昨晩、偶然にカトキチがこの曲を聴いていて、ひさしぶりにロングシーズンを聴いた。
この曲、ここで聴いても、充分、気持ちいいわ!

40歳+マウンテンバイク+ ipod(フイツシュマンズ)+平日の午前の林道=気持ち悪いおじさん  

気持ち悪いおじさん×短パン/クマ(鈴)=宇宙と交信する気持ち悪いおじさん

「たまには独りになるのもいいもんでやんすね。シェンパイ!へへ。」

「というより、独り大好き。」

宇宙と交信する気持ち悪いおじさん、林道に突入。
やっぱマウンテンバイクはオフロードをはしらなきゃね。ほほ。したり顔のほくそ笑み。
ペダルを踏むと、その分タイヤがヨレるのがわかる。グッと踏むとプニヨッとたわむ。

「その弾性を利用して、蹴りだすように、進む!進む!もっと進む!」

大声でそのセリフを何度も繰り返しながら、俺は走った。笑いながら。クマ鈴を鳴らしながら。

「ハーッ ハッハッハッハッ、ハーッ ハッハッハッハッ、ハーッ ハッハッハッハッ」

まだ、だいぶ雪は残っているが(ちなみに写真は最近のもの)木々の芽の出方がハンパじゃない。迫ってくるぐらいの勢いを感じる。最初、林道の入り口で怖くなったくらいだ。
あと、ちなみに、ここら辺は、クマが居ない所が無いくらいの土地らしい。

タイヤの蹴りだす感触と、匂いと、光の演出と、川の音と、ある程度のスピードと、ある程度の緊張感を楽しんでいると、あっという間に40分走り、出口についてしまっていた。

帰りは例の「ロングシーズン」をうすーくかけた。
それは、あっという間に、周りの音に溶けていった。
どこまでが「ロングシーズン」で、どこまでが川、鳥、風、砂利の音なのか?

気持ちいいねー。
あー、ビールのみてー。

道には雪はもうほとんど無いのだが、風は冷たい。

「うわっ!なに?この音!!風に音がついてんじゃん!」

その時、その冷たい風が吹き抜ける瞬間に、その風にピッタリの音が鳴った。
それは、実は「ロングシーズン」の中から聴こえている音だった…。
冷たい風のテーマ曲が生まれた。テーマ曲がどんどん生まれる。

その時に出来たテーマ曲の名
「くまげら」「ふきのとう」「風」「じゃり」「おひさま」「みずたまり」…

こう書くと、ずいぶんと素朴な四十歳になってしまったもんだな、オレ…。

ipodで聞いている音と周りの景色が溶け合っているからか、僕自身も景色の中に溶け出していく気持ちになる。いや、ほんとだって。

この曲は、全部溶かす用に出来てたんだね(妄想)

俺、この曲の正しい聞き方してるわ、今(おごりたかぶり)

これが偶然にも、曲の長さが、林道の長さとピッタリ。ちょうど曲が終わる頃、僕は自分の車の脇に居た。

あー、ビールのみてー。

しばし、放心。気がつくと、僕は、宇宙と交信する気持ち悪いおじさんから、単なる気持ち悪いおじさんに、そして車に乗る頃には普通のおじさんに、じょじょに戻ってしまっていた。いや、むしろ戻れてよかった。午後はまたペンキ塗りだ。だけどその前に、ちょっとビール呑もうぜ! なぁ、相棒!!(だれ?)